はじめに
今回は2月9日に発表されたJDSCのQ2決算をみていきます。
JDSCはAI系DX企業ということで市場では捉えられており、chatGPTの話題が席巻、Googleも対抗馬を発表するという盛り上がりの中での発表となりました。
結果、決算直前で買い上げられていた株価は大きく下落することになりました。
そうなった理由を考察すると:
- Q2の売上がQ1の売上を下回った
- 社員数が伸びない、離職者が出ている
- GoogleクラウドパートナーであるJDSCはGoogle陣営と捉える株主も多い中、GoogleはchatGPTの対抗馬の発表で大きな失策をしてしまった
- 追撃で同時期上場のAI系DX企業であるエクサウィザーズが下方修正を伴う決算ミスで大暴落となってしまった
といったところかと思います。
ではこの下落は絶好の買い場なのか、株主の反応のように危険な水準なのかを決算をみながら考察していきます。
基本情報
2023年6月期 第2四半期報告書
では2月9日に発表されたQ2報告書をみていきます。
まずはハイライトですが、いずれも絶好調ですね。利益進捗は2Qにして200%ですからね。もともとの利益計画がギリギリ黒字、ということではありますが投資余力も残した中での売上伸長は大きい。
またJERAやパナソニック、三菱重工とのJVなど非常に大きなプレイヤーと良好な関係を築き、実際にビジネスが稼働してきているのは大きな成果といえます。
いずれも絶好調な経営数字ですが、ひとつだけ気になるポイントがありますね。正社員数です。
社長の説明では想定内であり、かつ想定している離職についてはこれで区切り。この後の離職についてははっきり想定はしていないとしています。
他社のDX企業も人の採用に非常に苦しんでいることもあり、またJDSCはもともと黒字計画で上場してきて、人員増強を急ぐために赤字転落して失望売りが嵩んだという経緯があったりしますのでこの数字に株主は敏感にならざるを得ません。結局1年経って人員増強が達成されていないではないかと見られています。
ただ、会社説明では創業時に必要な人員と、上場後に企業を成長させる人員は異なり、一定数の入れ替わりは意図的なものであるとしています。そのためストックオプションのロックも短く設定し、人の入れ替わりを急いだということであります。
実際のところ正社員数は増えていないものの売上は当初計画を上回るペースで推移していますので、現時点でそう過敏に反応するものでもないのではというのが自分の見立てです。ただし人員増強には厳しい環境下にあることも事実で、今後の伸びに影響をあたえるファクターであることは否めません。
第二の気になるポイントはこちら。年間の比較ではしっかり成長しているものの、QonQではマイナス成長になっている点です。
利益については白地着地の計画のなかで上ぶれ分は適宜投資していくというなかで特になにも問題ないと思いますが、売上についてがとくに心配されるポイントかと思います。
これについては説明会の質疑での回答によると:
- 継続的な案件のなかで月次や四半期のタイミングで売上が入ったり入らなかったりする
- 大口との関係が悪化している、チャーンがあるということは全くない
とされています。
全くないのでご安心をといい切られています。安心しました。
売上進捗は上限、下限とも上回っていますね。
しかしレンジの計画は面倒なのでもう真ん中の数字でよいんじゃないかと思ってしまいます。あるいは下限の数字を当面の計画にするとかですね。
強気の計画数字を出したうえで下限の数字を大きく下回る下方修正を出して大暴落を演じた某企業のようなことはあってはならないですし。失望感もひとしおですよね。
それはともかく、上限をいいペースで上回っています。ひょっとすると20億円超えるチャンスもあるのかと思わせてくれますね。そうなればビッグインパクトになります。そこまでいくにはさらなる加速が必要ですが、昨年もQ4で伸ばしてきていますので期待できないこともないです。
海事とmaintenance insight、そしてその他部分の伸びが顕著ですね。2Q累計時点ですでに昨年度を抜いています。
一方でそれ以外の領域は昨年の半分に満たないものも多く、入れ替わりのスピード感も感じさせます。既存案件はフローからストックに切り替えていくことで人をかけないし、価格もさげて継続しているというようなことかもしれません。
海事に関しては特に顕著な伸びで期待が膨らみますねこれは。JV設立後すぐにこの成果はすごすぎる。
さてコスト構造が横ばいというのが課題といえば課題ですが、会社の説明では外部パートナー(外注だが横並びの戦友ということでこの呼称)で十分カバーできているということです。特に人が足りないから案件がとれていないということはないと。
さてその業務委託費は昨Qより伸びてはいますが、さりとて過去最高という水準でもなく、金額は1億円程度ですのでいうほど大きくはないでしょう。
人件費レートが不明なので正確には分かりませんが、平均人月160万円と仮定して、3ヶ月で103百万円だと21名程度ということになりそうです。現状の正社員70名という体制からすると少し割合が多いとは思いますが、開発人員としては適正な規模ではないかと思います。
大きく売上を向上させていくには正社員の確保と育成が今後課題にはなりますね。
YoYで大きな変動があるのは採用費と研究開発費ですね。広告は上場来ほとんど投資していないので今はいいでしょう。
採用費については人材エージェントに支払う採用成功報酬かと思われます。これは経営層の幹部社員をヘッドハンティングするときに特に必要になる費用でありますが、これは上場直後に行った施策でこれが原因で赤字になり株価転落ということもありましたが、いまは一旦落ち着いているということですね。まずは足元の開発人材をコストをあまりかけずに採れるかどうかというところが勝負になりそう。
研究開発費が削減されているのは、研究開発フェイズだったプロダクトが案件に活用されてきているということかと思います。人が足りないので将来の投資をやっている余裕がマンパワー的に厳しいという見方もあるかもしれません。
さて気になる人数の推移ですが、詳しく載せてくれていますね。
12月の採用5人がいなかったら66人というショッキングな数字になっていた…かと思うとちょっと怖いですね。
採用時期的に中途採用が中心だと思うのですが、直近1年で20名程度が新規採用ということで社内では相当な入れ替わりが行われていることでしょう。
ただ中途採用=別の会社・業界の困りごとをよく知っている人が入ってきているということで、これは会社を強くするインパクトも少なくないですし、なにより活力が生まれますから若い会社にとってよいことも多いと思います。
上場来このスタイルでアイコンを並べて説明をしてきたわけですが、その他領域も顕著に増えてきたためそろそろフォーマットを見直しますよという風に予告されていますね。
コンセプト的に1社目とそれ以降を分けるというのもわかるのですが、もうそろそろ1社目かどうかをはっきり区別しなくてもよいような気もしますがどうでしょう。
何しろその分野の1社目といっても今や横断的なノウハウを活用するわけですし、2社目以降の案件でも新たな知見が生まれますからね。
様々な協業が紹介されてきて、これまで開示されてきましたが、このなかでいうとパナソニックHDのフレイルコンソーシアム参加が、まだ案件化していないというか今後どう伸びるか楽しみなポイントですね。
単にコンソーシアムに参加されましたよ、というだけでここまで何度も開示するのかな、というので密かに話が進んでいるのではないかと期待してしまいます。ただフレイルってなかなかお金になりづらい領域ですので、その辺どうなのかなという思いもありますね。
ファイナンスプロデュースとはPMI(ポストマージャーインテグレーションの略ですね、日本語だと買収後統合かな)中ということで、協業のあり方について整理している段階だと思われます。
ただもちろん協議しているだけではなく、実際に案件で協業しながらよい距離感なり連携を探るというところでしょう。
自分は米国ベンチャーのPMIを担当したことがありますが、とても簡単じゃありません。ファイナンスプロデュースは日本企業だし、少人数だしでそのあたりうまくいくことを願っています。ちなみに失敗すると、買収先の人員の大半に辞められてしまうといった結果になりがちです。これは痛すぎなんですが、なにしろM&A周りでも人員の逼迫が大変厳しい環境にあり、そういう結果になっても全くおかしくありません。
三井物産とのJVというのはパンチがありますよね。
今の瞬間、コロナ禍明けで海運の運送レートがかなり下がっているということはありますが、一度パンデミックになれば船不足が大変深刻で世界的なインフレを引き起こす要因にまでなる影響力のある分野です。効率化にも相当な投資が今後行われていくことが予想されますし、本件プロジェクトの成功はかなり期待できるのではないかと思います。
また三井物産とのその他の連携にまで拡大できる足がかりにもなるところが大きいですね。JDSCの規模からしたら無限に商機をもっているようなパートナーですからインパクトが大きすぎます。
ということで現段階での見通しは据え置き、来期に向けて投資加速ということで、ここはしっかり足場がためを期待したいところですね。
おわりに
最後に決算説明会で会社から説明のあった文言のうち気になるポイントを挙げておきます:
- 正社員の採用のペースは今後も変えない。採用の要件を緩めて増員するということではなく、外部リソースとのバランスをとっていく。
- 東大の研究室とのリレーションというのは非常に強くあり、今も顕在。もうすぐこちらについて、ニュースも発表できるのかなとも思っている。
- 取り組みの発表が多く、複数の投資家に褒められている。結果を出せる AI の企業と、そうでない企業の優勝劣敗が進んでいく。まともにやっていることをしっかりと発表していく。
- 発表する武器はどんどん増えている。ご期待いただきたい。
ということで、株主はとにかく発表が大好きなので、これは期待してしまいますね。ここ3ヶ月ほど、特に様々な取り組みの発表が多く、この点高く評価できる水準だと思います。
それにしては株価がなかなかついてこないのですが、それは米国市場を始めとする相場全体の影響の部分もあり、買い場と判断できる側面も多いのではないかと思います。株価が急伸するにはまだボリューム不足ではありますが、現在仕込んでいる事業が一気に花開くと、そのときはついていけないほど伸びるタイミングがある場合もありますからね。そうしたタイミングまでは700~1000円のレンジを推移というところでしょうか。